観光都市 江戸の誕生

観光都市 江戸の誕生 (新潮新書)

観光都市 江戸の誕生 (新潮新書)

近世の観光としうと伊勢参り、その行き帰りに立ち寄る京都、奈良、大坂などの畿内都市をまずイメージするだろう。これに対しどちらかといえば政治都市としてイメージされている江戸を、新たに「観光都市」として位置づけようとする斬新な視角から書かれたのが本書、『観光都市 江戸の誕生』である。

江戸が「観光都市」であるという理由は、次の点に求められる。①参勤交代制度のため、江戸には常時数十万人の武士が住んでいた。比較的暇で十分な手当をもらっていた彼らにとって観光は生活の重要な部分を占めていた。②百万都市という巨大人口に加え、江戸には諸国からつぎつぎ新たな人が流入する。このマーケットをめぐり、出開帳を利用する全国の寺院、はては大名屋敷まで激しい競争を繰り広げた。③秘仏公開などの宗教行事には、必ず土産物、見世物、飲食店などが付帯し、複合的なレジャー施設を作り出していた。④観光と歌舞伎、瓦版などが結合し、現代流にいえばメディアミックスが存在した。

しかし、観光をめぐる競争はあまりに激しく、努力を怠ればただちに市場からの退出を余儀なくされる。出開帳が赤字決算に終わる寺院も少なくなかったのだという。

面白いエピソードもいくつも紹介されている。たとえば、開発によって近世中期にはすでに江戸の町から蛍が姿を消していた。蛍狩りという習慣はそのために生まれたものであった。

江戸で行なわれていた観光ビジネス戦略は、現代にもそのままあてはまるものが多そうだ。単に歴史書というだけでなく、ビジネスのヒントもこの本からは読み取れるかもしれない。