『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ』

本書は、全国各地の新聞記事、統計資料、数少ない報告書、そして日記など、スペイン・インフルエンザの資料を総動員してその全貌に迫った労作である。これまで日本のスペイン・インフルエンザに関するまとまった研究はほとんど存在せず、いわば「忘れられた」存在であった。著者はその理由として大正期は日本の歴史の激動期であったこと、また、直後に関東大震災があったことなどをあげている。

従来、資料がきわめて乏しいといわれていたスペイン・インフルエンザであるが、新聞記事を丹念に追うことにより、かなり鮮明な実像が浮かび上がってきた。いわゆる全国紙だけでなく、地方紙も渉猟することによって、地域差まで明らかになったことが特筆される。こうした分析手法は、大正期以後の近代史解明において、新たな可能性を提示するものである。

また、記述資料を統計データと結びつけることによって、資料の背後にある新しい事実が浮かびかがった点も興味深い。たとえば、前流行と後流行を連続的に見る新しい解釈は、複数の資料によって強く補強されている。

すでに新聞などでも紹介されているが、ネット上では中村宗悦氏のコメントhttp://chronicle.air-nifty.com/historical_amnesia/2006/03/_20062_cfa1_1.htmlも参照されたい。