徳川将軍家の演出力

徳川将軍家の演出力 (新潮新書)

徳川将軍家の演出力 (新潮新書)

徳川将軍といえば、特に目立った活躍をした者の治世にばかりスポットがあたる。しかし、こうした活躍はむしろ例外である。ふつうの将軍はどんな暮らしをしていたのか。本書は、将軍の日常生活には様々な演出がほどこされ、その効果が幕府の権力を高める上で非常に重要な役割を果たしたことを明らかにする。

たとえば、御目見得、御成、鷹狩といった行事はよく知られているが、この本を読んで初めてその実態がわかった。とにかく将軍にお目通りをしたり、将軍をお迎えしたりといったことは、想像以上に大変なことだったのだ。

磯田道史氏は、武士が貧乏だったのは「身分費用」ともいうべき儀礼行為に金がかかったからだという。将軍に関わる儀礼行為はその最たるものである。「献残屋」の話などまさに滑稽であるが、やってる本人たちは自分の出世や身分がかかっているから必死だったのだろう。

先日、伊藤之雄先生の『明治天皇』を読んだばかりだが、将軍から天皇へというシンボルの交代を考えるのも面白そうだ。