厚労省と新型インフルエンザ

厚労省と新型インフルエンザ (講談社現代新書)

厚労省と新型インフルエンザ (講談社現代新書)

現職の厚生官僚(検疫官)が執筆した本であり、かつ厚生労働省(正確には、検疫行政)を批判するものなので、一見すると暴露本的にとらえられる本であるが、実際に読んでみると非常にまっとうな本であることがわかる。真の狙いは、日本に欧米レベルの公衆衛生学を学ぶ場所を作ることが必要だと訴えた本である。

20年以上前にハワイ大学に留学していたとき、公衆衛生学部の講義を取ったことがある。社会学部の大学院との共通科目になっていて、その時だけ医学部の隣の建物で授業を受けた記憶がある。その時、アメリカでは医学部とは独立して公衆衛生学部というところがあることを初めて知った。

日本の場合、公衆衛生学は医学部の一部門という位置づけらしい。つまり、欧米では学部・大学院の規模を持つものが、日本では教室レベルの位置づけになっている。したがって、本格的な勉強をするのは日本では不可能で、欧米に留学しなければならないのだという(したがって優秀な人は欧米にそのまま流出してしまう、p151)。

筆者は、今回の新型インフルエンザへの対応の問題点をいろいろと指摘するが、単にお役所対応のまずさが原因ではなく、本当の意味での公衆衛生学が日本で確立していないのが問題と述べる。

その他、スペイン・インフルエンザの際、徹底した隔離政策を取ったカナダ・エドモントンの事例が紹介されているが、インフルエンザ流行が抑えられた証拠はないという指摘(p.102-103)なども興味を引いた。