勝海舟と福沢諭吉

勝海舟と福沢諭吉―維新を生きた二人の幕臣

勝海舟と福沢諭吉―維新を生きた二人の幕臣

昔、慶應で高校教員をしていたころ、東大の史料編纂所で幕府外国奉行所文書の調査をしたことがある。膨大な翻訳記録から福沢諭吉の訳した文書を探す仕事だったが、署名があるわけではなく、筆跡だけを頼りに1枚ずつ文書をめくった。私自身が見つけたのはほんの数点にすぎないが、発見の瞬間の感激は今でも忘れない。

このように福沢諭吉が最晩年の幕府役人だったこと自体はよく知られた事実だが、そのころの言動について改めて検討を加えたのが本書の最大の特徴である。福沢といえば『福翁自伝』という有名な自叙伝があるが、筆者はその記述は後年の福沢の立ち位置をかなり反映したものであり、一定のバイアスがあると主張する。

また、同じことは勝海舟聞き書きである『氷川清話』にもいえるという。幕末維新期にきわめて対照的な行動をとった勝と福沢だが、その実像を明らかにするためには、リアルタイムで残された記録を突き合わせながら、もう一度、追いかける必要があるのだ。

筆者はすでに幕末維新期に関する書物をいくつも出しているが、明治の視点からではなく、江戸の視点から「幕末維新」をとらえると、また違った側面が見えてくるという主張は、本書においても重要なメッセージを投げかけている。

11時-18時半