江戸っ子の意地

江戸っ子の意地 (集英社新書)

江戸っ子の意地 (集英社新書)

最近、江戸ブームということばがよく使われるが、実は同じようなブームが明治時代にもあった。それは、江戸開市三百年祭を祝った1889年(明治22)が起点になっているという。維新後、新政府に憚るところが多かった旧幕臣が、この祭典をきかっけに、さまざまな組織を作って展覧会を開いたり、出版事業に取り組んでいる。忘れないうちに江戸のことを残していこうという、このような努力のお陰で、研究の上でもきわめて有益な史料が多数残された。

この本は、こうした活動の母体となった旧幕臣、なかでも「南北会」を作った南・北町奉行所に勤めていた者の動きを中心に描いたものである。

本書を読むと、旧幕臣のかなり「したたか」な生き方も見えてくる。たとえば、新政府にはすべての文書を引き継いで江戸城が明け渡されたことになっているが、筆者は「旧幕府引継書」には幕末のものが異様に少なく、おそらく意図的な廃棄が行われたのではないかと見る(p.37)。また、静岡藩士となった幕臣が、新政府へつぎつぎと引きぬかれてゆくエピソードも面白い。中には新政府への出仕を強く渋る向きもあったようであり、「江戸っ子の意地」が貫かれていたのだろう。

研究室。10時-18時半。