人生で大切なことは手塚治虫が教えてくれた

人生で大切なことは手塚治虫が教えてくれた

人生で大切なことは手塚治虫が教えてくれた

手塚治虫といえば、「鉄腕アトム」と「ブラックジャック」という2つの漫画がすぐに頭に浮かぶ。前者は幼少時、後者は高校生のころに熱狂した。その間の時期には、「巨人の星」や「あしたのジョー」といったスポーツ漫画が入ってくるわけだが、このような漫画遍歴は、おそらく1950年代後半生まれの同世代にある程度共通しているはずだ。

本書は、手塚治虫の漫画を鉄腕アトムに代表される前期と、ブラックジャックに代表される後期に分けつつ、膨大な作品群の背後にある手塚治虫の哲学に切り込んだ労作であり、また同時に、ほぼ著者と同じ世代の者としては、自分自身が生きてきた時代を振りかえることのできる本でもある。

私の幼少期の数少ない記憶の一つに、郵便局へ行き、現金書留で「アトムクラブ」の会費を送るシーンがある。何度も宛名を間違えて困った記憶があるのだが、本書を読んで小学校1年生のできごとだったことを知った。正式には「鉄腕アトムクラブ」という、このファンクラブは1年足らずで解散し、後で『COM』という漫画雑誌に発展したそうだ。そういえば、クラブ入会のおまけに貴重なテレビのセル画がついていたが、残っていればきっと価値が出たのだろう。

天才・手塚治虫にもスランプがあり、もう手塚の時代ではないとうわさされた時期のあることも初めて知った。ちょうど、われわれの世代が「スポ根」漫画に熱中していた時期に重なる。そこから、いかにしてブラックジャックが生まれ、手塚治虫も復活したのかというあたりのストーリーも面白い。

ところで、小・中学校の同級生である筆者らは手塚治虫の未完作品を映画にすることを夢見ているようだ。終戦後のある大阪商人を描いた物語(『どついたれ』)だという。本書をきっかけに、まだ知られていない手塚治虫に光が当たり、未完に終わった手塚の夢も「火の鳥」のように復活してほしいという願いが、読後感として残った。