Social Science History(Eurasian Comparisons特集)

先日届いたSocial Science History32(2)の中の論文を読む。

ミシガン大学のリトル教授のEurasian historical Comparisons: Comceptual Issues in Comparative Historical Inquiryと題する論文は、最近の比較経済史の論点を非常に的確にまとめており、有益な論文である。

リトル教授(中国史/歴史哲学)は、今日、経済史においてもっとも活気にみちたトピックはユーラシア大陸における比較経済史であると述べる。イギリス産業革命を1つの発展コースであるとした古典的な経済史の枠組みが否定されたあと、現在の経済史はいかに「異なる発展コース」を見出すかということに主眼を移した。

従来の比較経済史は「国」対「国」の比較を基本としてきたが、実際の研究が進むにつれて、前近代の国家において地域間の格差がきわめて大きく、その意味で、「国」対「国」の比較は必ずしも適当とはいえなくなった。したがって、地域、あるいはコミュニティを単位とする比較から始めることが有効となる。

さらにこの分野の重要な研究として、2つを挙げる。第1は、中国経済史をめぐるポメランツとウォンらの論争である。この論争に関しては、アレンらの最近の実証研究を見ると前者の議論に軍配が上がるとしている(p.253)。

第2は人口家族史研究の分野での「ユーラシアプロジェクト」を取り上げる。これまでのところ、出生率水準においてイングランドと中国(の一地域)には大きな差が見られないこと、また地域内部の格差は非常に大きいという議論をとらえて、マルサス的な意味でのヨーロッパ対アジアという対立図式を否定したことを高く評価している。

ポメランツらの議論はグローバルヒストリーとして日本でも近年、注目されてきたが、これにユーラシアプロジェクトを重ね合わせた点は目新しく、今後の研究動向を考える上でも押さえておきたい論文だろう。