近世後期の領主支配と地域社会―「百姓成立」と中間層

近世史研究において、「地域社会論」とよばれる分野がある。1980年代あたりから研究がさかんになり、90年代以降、多くの成果が公刊されてきた。一般に、近世の支配関係としては藩(幕府代官)―名主(庄屋)という関係が基本とされているが、その中間に大庄屋などによって組織された「組合」などの支配機構が置かれることがある。地域社会論においては、そういった中間組織のあり方を主たる対象としながら、さまざまな角度から分析が行われてきた。かつて、この分野の研究のひとつについて書評を書いたことがあり(→http://www.iwata-shoin.co.jp/shohyo/sho60.htm)、いろいろと勉強させていただいたことを思い出す。

山崎氏はこの研究に携わるもっとも若い世代の研究者であり、博士論文としてまとめられたのが本書である。

対象とされた地域は大和・和泉・播磨の清水家領地であり、とりわけ「取締役」を務めた三枝家の膨大な史料の分析はすぐれて実証的であって、学界への貢献が極めて大きいことは間違いない。

ところで、御三卿を務めた清水家の分析という点もユニークである。幕府は御三家のほか、清水・田安・一橋の御三卿があったことは広く知られているが、その支配形態がどうなっていたのか、本書を読んではじめて明確なイメージを持つことができた。