円のゆくえを問いなおす: 実証的・歴史的にみた日本経済 (ちくま新書)

円のゆくえを問いなおす―実証的・歴史的にみた日本経済 (ちくま新書)

円のゆくえを問いなおす―実証的・歴史的にみた日本経済 (ちくま新書)

日本経済の長期にわたる停滞の要因は何か。このテーマで書かれた本はきわめて多いが、本書は経済理論の枠組みを踏まえるとともに、可能な限りデータの裏付けを取りながら議論を進めたきわめて手堅い本である。著者の筆遣いはきわめて慎重であり、ついつい結論を急ぎたくなるところも、一歩一歩に議論を進めてゆく。類書ではあまり利用されない歴史データを用いているところも特徴だ。

経済理論というと、きわめて難解なイメージがあるが、本書でもっとも重要なのは「国際金融のトリレンマ」という考え方(p.85)。すなわち、為替レートの安定化、国際資本移動の自由化、独立した金融政策の3つの中で、同時に達成できるのは2つまでという議論である。この比較的単純な考え方を使うと、歴史的な事象に始まって現在のユーロ危機にいたるまで、急に見通せた気になるから不思議だ。

本書は4章までに理論、実証、歴史を扱いながら経済分析の枠組みを用意し、いよいよ5章で日本経済再生の処方箋を描いてゆく。その切り口は非常にあざやかで、十分な説得性を持つように思った。

大学で経済学を教える者は、定評のある入門書のあと、ステップアップのできる中級レベルの本の選択に迷うことが多い。本書は、そういうニーズにも十分応えられる本だと思う。